脳静脈洞血栓症とは 脳静脈洞血栓症(Cerebral Venous Thrombosis:CVT、Cerebral Venous Sinus Thrombosis:CVST)は、脳から血液を心臓へ戻す静脈や静脈洞に血栓(血のかたまり)ができ、静脈血の流れが妨げられる病気です。
一般的な脳梗塞の多くは「脳へ血液を送る動脈」が詰まって起こりますが、脳静脈洞血栓症は、脳から血液を排出する静脈側が詰まるという点で異なります。
血液がうまく排出されなくなると頭蓋内に血液が停滞し、静脈圧や頭蓋内圧が上昇します。その結果、以下のような状態を引き起こすことがあります。
全脳卒中の約0.5~3%程度と比較的まれな脳卒中ですが、若年者や妊娠可能年齢の女性、血液が固まりやすい状態にある方(がん患者さんや経口避妊薬を内服している方など)で発症しやすいことも特徴です。
典型的症状 最も多い症状は「頭痛」です 脳静脈洞血栓症の症状は非常に多彩ですが、頭痛は約90%にみられる最も一般的な症状です。
通常の脳梗塞のように突然麻痺が起こるとは限らず、以下のような症状がみられることがあります。
頭蓋内圧が上昇すると、乳頭浮腫や視力障害を生じることもあります。
また、発症時にてんかんや高次脳機能障害、意識障害を起こすこともあります。一般的な動脈閉塞によって起こる脳梗塞と比べて、これらの症状が起こりやすいことも重要な特徴の一つです。
20~50%で、しびれや麻痺、複視などの視覚異常といった局所神経症状を認めるとされています。一方で、強い頭痛や長引く頭痛のみで発症することもあります。
そのため、通常とは異なる頭痛が持続したり、徐々に悪化したりする場合には、脳静脈洞血栓症も鑑別する必要があります。
原因 脳静脈洞血栓症は、一つの原因だけで起こる病気ではありません。
血液が固まりやすくなる状態や、血流が滞る状態など、さまざまな原因や危険因子が関係します。
主な原因・危険因子 女性に関連するもの 妊娠 産褥期 エストロゲンを含む経口避妊薬 ホルモン療法 血栓性素因 Protein S欠乏症 Protein C欠乏症 Antithrombin欠乏症 抗リン脂質抗体症候群 その他の先天性・後天性血栓性素因 その他 悪性腫瘍 血液疾患 感染症 炎症性疾患 脱水 頭部外傷 一部の薬剤 その他の静脈血栓塞栓症の危険因子 多くの患者さんでは、上記のような一過性または持続性の素因がみられます。日常診療でみられることが多いものとして、経口避妊薬の使用、妊娠・産褥期、血栓性素因などが挙げられます。
診断 診断には、MRI+MRV(MR venography)またはCT+CTV(CT venography) が中心となります。米国心臓協会(AHA)の「脳静脈血栓症の診断と治療に関する科学的声明(2024年)」でも、MRI/MRVまたはCT/CTVが主要な診断法とされています。
*Saposnik G, et al. Diagnosis and Management of Cerebral Venous Thrombosis: A Scientific Statement From the American Heart Association. Stroke. 2024;55:e77-e90.
MRI MRIでは、主に以下の項目を専門医が評価します。
画像診断は専門的になりますが、通常の動脈性脳梗塞とは異なり、脳動脈の支配領域に一致しない脳浮腫・梗塞・出血を認めることが、CVTを疑う重要な手がかりになります。
また、T1/T2強調画像では、静脈洞内の血栓を確認できる場合があります。
MRV 頭部MRI検査の特殊な手法であるMRV(MR静脈撮影:Magnetic Resonance Venography)では、脳の静脈や静脈洞の血流を評価します。
血栓によって静脈洞が閉塞すると、本来描出されるはずの静脈洞(太い静脈)が描出されなかったり、静脈洞が途中で途絶して見えたりすることがあります。
血液検査 また、脳静脈洞血栓症のリスクとなる素因を調べるため、患者さんの年齢・既往歴・家族歴・誘因などに応じて、以下のような血液検査を検討します。
血算 凝固系 D-dimer Protein C量 Protein S量 Antithrombin量 抗リン脂質抗体症候群の有無 ただし、すべての患者さんに一律の血栓性素因スクリーニングを行うという意味ではありません。
治療 基本は抗凝固療法 急性期治療では、原因に応じた治療とともに、入院のうえ抗凝固療法を行うことが中心となります。
抗凝固療法は、血液が固まりにくい状態にすることで血栓の拡大を防ぎ、血流の改善を促すために行います。
病状が安定した後も、再発予防のため一定期間、経口抗凝固薬を使用します。
従来はワルファリンが中心でしたが、現在はDOACも重要な選択肢となっています。
そのほかの治療方法 血管内治療 抗凝固療法を行っても神経症状が進行する重症例などでは、カテーテルを用いて機械的に血栓を回収したり、血栓に直接アプローチして血栓溶解薬を投与したりする治療が検討される場合があります。
開頭減圧術 大きな静脈性梗塞・脳内出血・脳浮腫によって脳ヘルニアが切迫する場合には、救命を目的として開頭減圧術が必要になることがあります。
予防方法 すべてのCVTを予防できるわけではありませんが、原因や危険因子が判明している場合には、再発リスクを下げることが重要です。
脱水を避ける 喫煙を避ける 適度に身体を動かす 原因となった可能性のある薬剤について医師と相談する 血栓性素因がある場合には専門医の管理を受ける 悪性腫瘍・炎症性疾患などの基礎疾患を適切に治療する 処方された抗凝固薬を自己判断で中止しない 特に、エストロゲンを含む経口避妊薬に関連して発症した場合には、その後の使用について主治医や婦人科医と相談する必要があります。
血栓症の既往がある女性では、エストロゲン含有避妊薬の使用について慎重に検討する必要があります。
よくある質問 普通の脳梗塞とは違うのですか?
違います。一般的な脳梗塞は、脳へ血液を送る「動脈」が詰まることで起こります。一方、脳静脈洞血栓症は、脳から血液を戻す「静脈・静脈洞」が詰まる病気です。
そのため、若い方にも発症することがあり、頭痛やてんかん、頭蓋内圧亢進、出血性病変など、一般的な脳梗塞とは異なる症状や画像所見を示すことがあります。
頭痛だけでも脳静脈洞血栓症の可能性がありますか?
あります。頭痛はこの疾患で最も多くみられる症状で、麻痺などの局所神経症状を伴わず、頭痛だけで発症することもあります。そのため、脳静脈洞血栓症は頭痛診療において重要な鑑別疾患の一つです。
このページの執筆者 経歴
2011年 東邦大学医学部医学科 卒業 2013年 東邦大学医療センター 大森病院 脳神経外科 入局 2017年 東京蒲田医療センター 脳神経外科 2018年 東邦大学医療センター 佐倉病院 脳神経外科 助教 2022年 上田クリニック 副院長就任
東邦大学医療センター 佐倉病院 脳神経外科 非常勤医師 2023年 上田クリニック 院長就任 資格
日本脳神経外科学会 専門医・指導医 日本脳卒中学会 専門医・指導医 日本脳神経血管内治療学会 専門医 日本脳神経外科認知症学会 認定医 認知症サポート医 BOTOX施注医 難病指定医