可逆性脳血管攣縮症(RCVS)とは

可逆性脳血管攣縮症(Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome:RCVS)は、突然の強い頭痛で発症する脳血管障害の一つです。脳の動脈が一時的に強く収縮して細くなる病気です。
典型的な症状としては「雷鳴頭痛(thunderclap headache)」と呼ばれる、突然発症して短時間でピークに達する非常に激しい頭痛を認めます。脳動脈には複数箇所に狭窄や拡張がみられますが、多くの場合、この血管異常は1か月~3か月で改善・消失することが特徴です。
「可逆性」という名称から軽い病気と思われることがありますが、経過中にくも膜下出血、脳内出血、脳梗塞、PRES(可逆性後頭葉白質脳症)などを合併することがあり、突然の激しい頭痛を認めた場合には頭部MRI・MRA検査による早期の評価が重要です。
典型的な症状
最も特徴的なのが、先に述べた雷鳴頭痛です。
「突然、頭を殴られたように痛くなった」「これまで経験したことがないほど激しい頭痛」と表現されることがあり、痛みは急速にピークに達します。
RCVSでは、このような激しい頭痛を数日〜数週間の間に繰り返すことが特徴です。
頭痛が軽度で歩いて病院に来院する方から、強い頭痛により救急車で搬送される患者さんまで、症状の程度はさまざまです。頭痛以外の症状についても、脳血管攣縮が脳動脈のどの部位に起きたかによって異なります。下記のような症状を伴うことがあります。
- 吐き気・嘔吐
- 光がまぶしく感じる
- けいれん
- 手足のしびれ・麻痺
- 言葉が出にくい
- 視覚異常
- 意識障害
特に、突然発症した激しい頭痛に麻痺・言語障害・意識障害などを伴う場合は、くも膜下出血や脳卒中との鑑別が必要なため、緊急の頭部MRIなどの画像検査が必須となります。
原因
可逆性脳血管攣縮症の詳しい発症機序は完全には解明されていません。
現在は、脳血管の収縮・拡張を調節する仕組みが一時的に障害される「脳血管トーンの調節異常」が中心的な機序と考えられています。交感神経系の過剰な活性化や血管内皮機能障害などの関与も指摘されています。
誘因
可逆性脳血管攣縮症にはさまざまな誘因があります。
代表的なものとして、以下のようなものが報告されています。
- 妊娠・産褥期
- 激しい運動
- 性行為
- 入浴・シャワー
- 咳・いきみ
- 強い精神的ストレス
- 血管作動性薬剤(交感神経刺激薬、エルゴタミン)
- 一部の抗うつ薬(SSRI)
- 大量の飲酒
日本脳卒中学会のガイドラインでも、可逆性脳血管攣縮症が疑われる場合には薬剤・嗜好品・健康食品などを含めた詳細な問診が重要とされています。
診断
可逆性脳血管攣縮症では、症状と画像検査を組み合わせて診断します。
頭部MRI
まずは脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、PRESなどのほかの脳卒中の合併がないかを確認します。
一方で、発症初期には脳MRIが正常な場合もあります。
MRA・CTA
脳動脈を評価することで、狭窄や拡張など、脳動脈の壁不整(攣縮)の有無を確認します。
ただし可逆性脳血管攣縮症では血管攣縮が末梢血管(細い血管)から始まり、時間経過とともに徐々に中枢側(太い血管)へ広がることがあるため、発症直後の検査では異常がはっきりしない場合があります。
したがって、初回検査が正常でもRCVSが強く疑われる場合には、経時的なMRAなどの再検査が重要です。
脳血管造影検査(DSA)
また、重症度によっては、入院のうえカテーテルによる脳血管造影検査(DSA)が必要となることもあります。
そのため、脳神経外科専門医による、くも膜下出血、脳静脈洞血栓症、頸動脈・椎骨動脈解離、可逆性後部白質脳症症候群(PRES)、中枢神経系血管炎など、他の脳血管障害との鑑別診断が重要になります。
治療
可逆性脳血管攣縮症の治療で最初に行うことは、原因・誘因となっている薬剤や物質を中止し、誘発行為を避けることです。
日本脳卒中学会でも、「原因となる薬剤を直ちに中止し、誘因となる行為を数日〜数週間避ける」ことを推奨しています。このため、まずは原因を特定することが重要になります。
薬剤療法
具体的な薬剤療法としては、血管拡張作用のあるCa拮抗薬やプロスタサイクリン、PDEⅢ阻害薬、抗血小板薬で血管拡張作用を有するシロスタゾールやマグネシウム製剤が使用されます。
しかし、これらの投薬について十分な根拠が確立されているわけではないため、患者さんの背景をもとに慎重な判断が必要となります。
血管内治療
脳梗塞合併例などの重症例においては、脳血管造影検査(DSA)を行いながら血管拡張薬を動脈内投与するなどの血管内治療が検討されることがあります。
しかし、頭蓋内出血を合併する危険性もあるため、日本脳卒中治療ガイドラインでは重症例に対する血管内治療は「考慮してもよい」と慎重な方針とされています。
予防方法
可逆性脳血管攣縮症を完全に予防する方法は確立されていません。
ただし、一度RCVSを発症した患者さんにおいては、原因と考えられる薬剤や誘因を把握し、再び曝露されないことが重要です。
多くの場合、血管攣縮は約3か月以内に改善しますが、症状が改善したことだけで判断せず、MRI検査などで画像上も脳血管攣縮が改善していることを確認することが重要です。
よくある質問
可逆性脳血管攣縮症は治る病気ですか?
可逆性脳血管攣縮症は90%以上が予後良好であり、再発を起こしにくい病気です。
論文でも多く報告されており、入院患者の90〜95%が数日〜数週間で症状・神経症状の完全または大幅な改善を認めています。
ただし、10%弱の患者さんでは、脳梗塞や脳出血などの合併により、後遺症を残してしまうため、脳神経外科専門医による早期診断と適切な対応が重要です。
くも膜下出血とは違うのですか?
くも膜下出血はくも膜下腔に出血を起こす病気です。脳動脈瘤の破裂や可逆性脳血管攣縮症などによって引き起こされる脳卒中です。
MRIを撮ればすぐに分かりますか?
必ずしもそうではありません。可逆性脳血管攣縮症では発症初期のMRI・MRAが正常なことがあり、発症直後は頭部MRI・MRA検査で正常所見を呈することがあります。
また、この疾患の診断には、十分な知識と実際の診療経験が重要になります。そのため、ただMRI検査を受けるだけではなく、診断医が経験豊富な脳神経外科専門医であることも大切です。
脳梗塞になることがありますか?
あります。重症の可逆性脳血管攣縮症では2次的に脳梗塞だけでなく、くも膜下出血、脳内出血、可逆性後部白質脳症症候群(PRES)などを合併することがあります。
再発しますか?
再発する可能性はゼロではありませんが、非常に低いと考えられています。しかし、まれに、可逆性脳血管攣縮症の発症後に再び雷鳴頭痛や軽度の血管攣縮を経験する患者さんがいることも報告されています。
突然ものすごく頭が痛くなりました。翌日まで様子を見ても大丈夫ですか?
突然発症して短時間でピークになる激しい頭痛は、RCVSだけでなく、脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血など生命に関わる重大な病気でも起こります。
初めて経験する突然の強い頭痛を自己判断で様子を見ず、速やかに脳神経外科専門医のいる病院を受診してください。
このページの執筆者
経歴
- 2011年東邦大学医学部医学科 卒業
- 2013年東邦大学医療センター 大森病院 脳神経外科 入局
- 2017年東京蒲田医療センター 脳神経外科
- 2018年東邦大学医療センター 佐倉病院 脳神経外科 助教
- 2022年上田クリニック 副院長就任
東邦大学医療センター 佐倉病院 脳神経外科 非常勤医師 - 2023年上田クリニック 院長就任
資格
- 日本脳神経外科学会 専門医・指導医
- 日本脳卒中学会 専門医・指導医
- 日本脳神経血管内治療学会 専門医
- 日本脳神経外科認知症学会 認定医
- 認知症サポート医
- BOTOX施注医
- 難病指定医